『見知らぬ天井、終わりのない廊下』


スバルにとって、寝起きの悪い目覚めとは縁の遠いものだった。

瞼を開ければ目に飛び込んでくるのは、人工的な印象の白い輝きだ。知らない天井、そこに備えつけられた結晶が、いかなる原理でか淡い輝きを放って室内を照らし出している。

寝起きのよさには定評があり、一度目が覚めればすぐに意識が覚醒するのがスバルの体質だった。

 

「……枕の感触が違ぇな」

 

寝返りを打って、頭の下の感触が普段と違うことに気付く。

さらにそのふかふかした寝心地も、寝慣れた万年床の布団ではあり得ない。畳まなすぎて布団の下の床が変色しているほどだというのに。

 

「おまけに超いい匂い。くんかくんか……お日様の香りがする!まあ、アレって本当は日差しで焼け死んだダニの臭いなんだけど」

 

人生で知りたくなかった知識で上位三指に入りそうな内容。

ある意味死臭を思う存分に堪能して、スバルはようよう体を起こす。と、半身を起して見回したそこは、一目で上流階級とわかる一室だ。

寝ている寝台はスバルが五人ほど寝ても余裕がありそうで、寝台を中心に部屋の大きさは二十畳はありそうだ。

二十畳ワンルームの賃貸なら、スペースの無駄遣いも甚だしい。が、

 

「豪邸のお約束パターンからすれば、んなのはありえないっと」

 

意識は完全に覚醒し、寝台から下りたスバルは軽く身を回して体調確認。

まずは肩や手足の各種関節、もも上げとスクワットによる心肺及び持久力のチェックを行い、早くも息も絶え絶えになりながら服をまくり、

 

「お腹の傷……なーし。打撲はもちろん、切腹痕もなしか。縫い目もなしとは、この世界の外科は優秀だな。傷とか残ったらオヨメいけなくなっちゃう」

 

炊事に洗濯、裁縫はもちろん各種家事機能はALL未収得。

頑丈さとなんでもよく食べます、といった点がPR内容。さあ、そんなスバルを嫁にもらってくれるお大臣はいらっしゃるのか。

 

「俺なら絶対にごめんだな。……にしても」

 

部屋の中は先ほどの感想通り、ベッドが置かれている以外には窓際に観葉植物が置かれ、壁には調度品と絵画を飾った程度の簡素なものだ。

この世界にあるのかは不明だが、時計――のようなものは見当たらないし、カレンダーの存在も確認できない。

 

「問題はどんだけ意識なかったかだけど……うん、五時間くらいかなー」

 

自分の顎に触って、無精ヒゲの感触でおおよその経過時間を計る。

時計なしでもかなり正確に時間を確認できる裏技だ。無精ヒゲ時計の感触からすると、最後の確認からおおよそ五、六時間。つまり、異世界召喚されて最初の一日が終わりを迎えた頃になる。

そこまで考えて、スバルは改めて己の腹に触れて、

 

「とにかくなんにせよ……今回は『死に戻り』は回避できたってことか?」

 

起きてから今まで、出しかねていた結論を口にして、ようやく目をそらせない現実と向き合う覚悟を決めたのだった。

 

※ ※※※※※※※※※※※※

 

意識を消失する寸前、それまでの経緯を指折り思い出す。

 

「一回無様に死んで、二回目も果敢に死んで、三回目はわりと完璧な犬死を演じて、四回目は死闘観戦の果てに流れ弾で死亡――的な展開だったけど、命拾ったみたいでよかったよかった。これで死んだらモブ一直線だな俺」

 

死因の全部が全部、そんな感じなのはご愛嬌。

ともあれ、広すぎて落ち着かない部屋の寝台――整えられたシーツと掛け布団を盛大にくしゃらせ、その上にあぐらをかきながらスバルは黙考。

『死に戻り』を回避した以上、ここがリスタート現場と異なるのは間違いない。万分の一ぐらいの確率で、いつも再スタートしてる八百屋の店主の実家という可能性も存在するが、現状考えられるのは、

 

「ラインハルトの家か、エミリアたんの家かってとこだな」

 

スバルに好意的であり、こんな豪邸を所持していそうな印象があるのはこの二人だけだった。

おそらくは後者ではないかと、己の願望まじりでスバルは考える。

腹の傷の治療――これはおそらく、エミリアの魔法によるものだろう。あの場で即行で治療が行われなければ、スバルのDEADENDは避け難かったと思うし、なにより女の子の手ずからヒーリングされたと信じたい男心。

 

「別にあのイケメンがヒーリングもできるイケメンでもいいんだが……夢ぐらい見たっていいじゃない。異世界なんだしぃ」

 

シーツをつんつん指でつついて、女々しい仕草で端的に感想。

それからスバルは体を弾ませ、ベッドのスプリングを利用して床に降り立つ。とりあえず、ここがどこなのか確定させたいところだ。

 

「となると、新たな冒険の始まりだな。……いかん、いかんぞ、俺!わくわく以前に面倒くさいと感じるなんて、お前はあのひきこもりの時代に戻るつもりなのかよ!?あんな、ただご飯食べてゲームしてアニメ見て寝たい時間に寝てスレとか覗いて書き込みしてるような……戻りてぇ」

 

別に異世界召喚されたい願望とかあったわけじゃないし。

そもそも、ひきこもり生活に対する不満があったわけでもない。ただ退屈に過ぎゆく日々を無為に思ったことはないし、眠りたいだけ眠れるなんてニート生活万歳そのものだ。

 

「そりゃ少しは親に悪いとか思ってたけど……ある意味じゃ放任というか黙認されてたようなもんだしなぁ」

 

普通に筋トレして、食卓でご飯を食べて、当たり前のように外出して小遣いもせびる。学校に行かない以外は支障のない生活なので、正しくはスバルはひきこもりというよりは不登校児というべきだろう。

 

「なんと衝撃の事実。こうして異世界で自分を振り返る機会がなかったら、ひょっとしたら俺は一生、自分がひきこもりじゃないって気付かなかったかもしれないな……まさか、俺はそのためにここに……?」

 

今後は自称に気をつけることにしよう、と固く心に決める。安易に自分をひきこもり認定して、『世界ひきこもり検定協会』とかに怒られたくない。

 

「やっぱ協会員も全員がひきこもりなんだろうな……あれ、だとするとみんないったいどうやって連携を……」

 

謎が謎を呼ぶ思考の堂々巡り。首をひねり、スバルは「どうでもいいや」と長々とした考えの結論を放り投げて、忍び足で扉の方へと向かう。

理想としては時間を潰している間に、スバルの様子を見にきた誰かとエンカウント――事情説明があって現状把握、が望ましかったのだが。

 

「あるいは目が覚めると、『起きた?』なんて枕元で看病してた女の子が聞いてくる展開だな。っていうか、普通はそれだろ。召喚しといて召喚した美少女が側にいないといい、ちょっと不備が目立ちすぎるぞこの召喚もの……」

 

評価すべき点は、とりあえず異世界ファンタジーのお約束として、出会う人物のみんながみんな美形であるところは押さえているところか。

ともあれ、名前のある人物で顔見知りはたったの五人。トンチンカンは見るからにモブだし、ひとりはしわくちゃのジジイもいいところだが。

 

「フェルトは磨けば光りそうな感じがしたし、エミリアたんとラインハルトは言うに及ばず、だな。エルザは……うぉう、指先震えてきたノーカン!」

 

トラウマゲージが溜まるので評価規格外という結論に。

見た目だけなら美人だったのは認めるが、殺傷依存症とあっては「そこがギャップ萌えだよな!」と前向きな結論にはいけない、さすがに。

 

「んじゃ、結論を見たとこで、先延ばし展開に別れを告げて旅立ちを始めるとするか……新しいこと始めるのって、超ドキドキ!」

 

さりげなく小声で言いながら、慎重にドアノブを回して扉を開ける。

外、ひんやりとした空気が部屋に忍び込み、ふっと素足が床の冷たさに「ふわぅ」と過剰反応してしまう。

 

部屋の外に出ると、広がっていたのは暖色系の塗装で統一された長い廊下だ。左右、どちらにも長々と道が続いていて、途中途中に同じような扉が点在しているのが見える。おそらくはどの扉もスバルの寝ていた部屋と同様の造り――二十畳クラスがこれだけあるとなると、想像以上の豪邸ということになりそうだ。思わず、持ち主を想像してスバルは喉を鳴らす。

 

「うわぁ、としか言いようがねぇな。超広いっつか広大。そんで、こんだけ広い感じだってのに……人の気配が全然しねぇぞ」

 

素足で廊下――つるつると磨き上げられた材質(学校の床に似てる)をぺたぺたと歩きながら、スバルはその静けさに思わず眉を寄せる。

人の気配、は比喩表現だが、この場合は生活音というべきか、そういったものがこの廊下にあっては一切スバルに届いてこないのだ。

 

「さっきの部屋もそうだけど、静かすぎんな……騒ぐのが心咎める程度に」

 

本来なら、大声を上げながら「誰かいませんかー!」ぐらいやるのがスバルの性格なのだが、現在の状況ではそれをやるのも危ぶまれる。

なにせスバルは現時点で、自分の現状を欠片も把握できていないのだ。

 

先ほどは当たり前のように自分に好意的な人物の屋敷と判断したが、ひょっとすると意識を喪失したあとでエルザが十万からなる大軍団を編成して逆襲しにきた可能性もなくはない。

もしそうだった場合、スバルを捕えたのはエルザ側であり、屋敷は一気にお人好しの大富豪の家から殺し屋集団の隠れ家へクラスチェンジだ。

 

「やっぱ向こうからのアクションを待つべきだったか。今からでも部屋に戻って、膝を抱えてガクガク震えながら神様にお祈りでも捧げるべかー」

 

廊下にも飾られている調度品を眺めながら、スバルは鼻歌まじりに敗走の算段を始める。

飾られた絵は部屋の中のものは風景画っぽかったが、廊下に飾られているのは一風変わった抽象画が多い。幾何学的な模様を見ながら、「うーん、この筆のタッチがなんとも」とか知ったかぶりしつつ、

 

「ま、そんな弱気な発想でフラグ逃しはいかんよ、俺。もっと前向きにやっていこうって決めたじゃん、誓ったじゃん。決めた記憶ないし誓った相手もいねぇけど、そこは脳内補正しつつ」

 

戻る選択肢は消して、スバルはとりあえず人探しを目標に歩き出す。

右か左、さほど迷わずに右を選択。何かの漫画で以前、『左は罠が多いぜ、へへへ』的な会話を見た覚えがあったからだ。

落ち着いて考えると、どの部屋から出るかで右か左の区別はきれいさっぱり変更になるのだが、しばらく歩いてから気付いたのでそっと蓋をした。

 

「つっても、似たようなドアが続くな……相変わらず人気ねぇし」

 

突き当たりにも辿り着かないし、五つほど扉を進んでスバルは困惑。

いくら広いにも限度があるだろう。時間にすれば一、二分で音を上げるなと言われるかもしれないが、その間に移動した距離はゆうに三百メートル。

普通に考えて、三百メートルも突き当たりが見えないまま続く廊下というものが存在するだろうか。

いくらなんでもおかしい、と頭を掻きむしり、スバルは何気なく振り返る。最悪、元の部屋に戻るのもやむなしという判断が――、

 

「あれ?」

 

素っ頓狂な声を出して、スバルはさらなる困惑に首の角度を深める。

背後、先ほどまで歩いてきた道のり――その廊下の突き当たりが見えないのは同じ条件だとして問題は、

 

「この絵って……最初に出発した部屋の前で見なかったか……?」

 

「このタッチが」とかふざけていた覚えがあるので間違いない。

まったく同じ作品を飾っている、という可能性もあるが、ひとつの通路に似たような部屋を並べて、同じ絵を飾るというのは趣味が悪すぎる。

 

「つまり、もっと端的に考えると……ループしてるな」

 

おそらくは廊下をある程度移動したところで、マップの反対側にふわっと転移している感じだ。もしくは異世界ファンタジーのお約束を覆して、スバルに気付かれないぐらいさりげなく稼働してる動く床仕掛け。

 

「床の仕掛けパターンだと、一気に時代考証が狂うな。……しかし、これといい『死に戻り』といい、ループものに縁がある話だな、オイ」

 

誰にともなくそう突っ込んで、スバルは手近な部屋の扉を開ける。と、中は二十畳の広さに寝台を置いただけの簡素ルーム。

即ち、スバルが最初に寝かされていた部屋そのものだ。

 

「つまるところ、移動しても無駄だから大人しくしてろって意味か?」

 

目覚めたスバルが勝手な行動をとらないように、こうして行き先に制限をかけたということか。手間やら魔力やらの無駄遣い全開な気がするが、力の差を見せつけて抵抗する気力を奪う目論見もあるのかもしれない。

 

「ま、確かに普通に考えたら抵抗する気力もなくすわな。こんだけ不思議空間作られて、びっくらこかないわけがない。普通に考えたら」

 

「んー」と体を伸ばし、屈伸に伸脚。壁に手をついてしっかりとアキレス腱をほぐし、筋肉を温めて調子を整える。

 

「俺もいつもならこんなの無理だヒャッホーイってな感じでベッドに突撃。誰かくるまで惰眠貪りing系まっしぐらなんだが……」

 

廊下の真ん中にしゃがみ込み、クラウチングスタートの姿勢を取る。

ゲットセット、レディ――。

 

「さすがに半日も寝てたら、もう全然眠くねぇんだよ!!」

 

別にかっこよくない啖呵を切って、スバルが全力で走り出す。

 

速度はフェルト以下で、ぶっちゃけロム爺以下。

持続力は低く、百メートルは残念ながら七十メートル地点で息切れする残念スタミナ。だが、この一瞬を駆け抜けるには十分すぎる。

 

走る、走る、走る。――ひたすらに、繰り返し続ける前へ。

廊下の突き当たりは依然見えず、走っても走っても同じ光景が舞い戻る。それは徒労を意味し、スバルの必死さを嘲笑う結果。

だが、スバルは走ることをやめない。

愚直に、ひたすらに真っ直ぐに、それを続けることだけが凡庸な男にできるゆいいつのことなのだと、そう態度で示すかのように。

 

もはや廊下に人気がないであるとか、余所様のお屋敷であるとか、半日前にお腹切られたばっかりだとか、そろそろ小用がしたいとかどうでもいい。

 

「いや、最後はよくない!よくないぞ!やべぇ、気付いたら尿意が猛烈に込み上げてきた!大きいのと小さいのが同時にやってくる!」

 

きゅぅっとスバルの男の子の部分が苦鳴を上げ始め、さっきまでの颯爽としたフォームはどこへやら。駆け抜ける姿勢は微妙に内股を作りつつ、上体が揺れていちいちしなを作る女走りへ進化を遂げる。

 

が、そんなスバルの走り方など些細な違いと、世界は彼の努力を嘲弄することをやめようとはしない。

その悪意にも似た繰り返しに、ついにはスバルの足の速度も鈍る。

肩を大きく揺らして荒い呼吸。額に汗すら浮かぶ孤独な戦い、その中で何ひとつ得ることが叶わず、スバルはその場に膝を屈する。そして――、

 

「もう、ここで、するしかない」

 

全てを投げ出して、己の下腹部を守る着衣に手をかける。

人としての尊厳は失われるかもしれない。するべき場所で排泄もできないなんて、下手をすれば犬や猫以下の躾のなってなさだ。

だが、そんな罵倒も甘んじて受けよう。それでスバルの心は折れない。

 

「それに、新たな性癖に気付いた俺にとって、そんな罵倒もひょっとしたら快感なのかもしれないのだから――」

 

異世界召喚されて以来、初めての爽やかな笑顔で言い切って、スバルはその場に腰を下ろす。せめて廊下の端に寄ったのが、彼に残されていたほんのわずかな理性の兆しだった。

――と。

 

「ナツキ・スバル、出ます――あれ?」

 

いざ踏ん張ろう、とそう考えたスバルの眼前、変化が生まれる。

先ほどまで、駆けても駆けても繰り返されていた光景。その代わり映えしない廊下の姿が、スバルの視界の中でふいにぐにゃりと歪んだ。

 

紙をぐしゃりと握りしめ、すぐに引き延ばし直したような世界の変貌。

皺が伸び切ったあとの光景、それを確かめるようにスバルは瞬きし、思わず引っ込んでしまった尿意を堪えながら立ち上がる。

 

「なんかよくわかんねぇけど……結果オーライか?」

 

見れば、廊下の突き当たりが見える世界がそこに訪れていた。

スバルの正面には何度も見た抽象画が存在し、その絵の目の前には寝かされていた部屋がある。

初期位置に戻されたことには違いないが、その後のループからは脱したらしい。攻略条件はわかり難かったが、

 

「ズバリ、勝因は尿意か。これは複雑なフラグ。普通に挑んでたらまず気付かない条件だぜ……考えた奴、鬼がかってんな」

 

『鬼がかる』は神懸かるの別バージョンみたいな造語である。

スバル考案、というよりは今思いついたのを言ってみただけだが。

 

「さて、せっかくループから逃れたわけだし、部屋戻って寝るか……」

 

頭を掻きながら、最初の扉を振り返る。と、心なしか廊下の空気にひんやりと冷たい感覚がまじる。別に言葉にされたわけではないが、そこに込められた気持ちはわりとストレートに伝わる。顰蹙を買ったらしい。

 

「戻れ戻れと念じてた奴が、思惑を超えてきた上で全部放り投げる。――あると思います。……わかったよ!行くよ!」

 

姿の見えないループの原因とやらに、怒声を投げてスバルは歩き出す。

目論見を根本から折ってやるのもありだったが、それではイベントが進まない上に、そもそもいまだに尿意は継続中だ。

 

「つまり、尊厳を守るために俺は進むしかない。――奴さんも、かなりわかってやがるぜ。俺がそう、退けないってな!」

 

決め顔で断言。そう、スバルは戦う。尿意のために。

 

廊下はそのループこそ終えたものの、代わりと言わんばかりに妙な雰囲気に包まれている。独特なその感覚が、スバルはどこかエミリアが魔法を発動しようとしていた際の感覚に似ていると感じていた。

 

ど素人の勘で頼りないが、つまりこの廊下には魔力が満ちている。

移動ループを実現した際と違い、それを隠そうともしないこの状況。術者はかなりの自信家だろう。罠を張っている場所を用意し、「さあ、罠がありますよ」と主張しても問題ないと胸を張れる程度には。

 

「闇雲に進んでも危険。かといって、慎重さは度が過ぎれば臆病も同然。そしてなにより、俺には時間制限があるんだ……」

 

今は波が遠ざかっているが、この波がいずれさらなる高波となって戻ってくるのは周知の事実。

息を呑み、額の汗を拭って、スバルは覚悟を決めて最初の一歩を踏み出す。

目の前の扉、そのドアノブをひねり、

 

「ループしまくりのあとの罠満載の廊下。こういう典型的なダンジョンイベントって、意外と最初のドアがゴールだったりするよな」

 

そんな思いつきに等しい発想で扉を開き――、

 

「……なんて、心の底から腹の立つ奴なのかしら」

 

見覚えのない書庫の中、こちらを見つめる巻き毛の少女の恨み節を受けた。