『1/4』


 

湯気の立つカップを傾けながら、スバルはフレデリカの言葉にも耳を傾ける。

 

「亜人戦争――そもそも、それがどういった内容の争いだったのか、スバル様はご存知ですか?」

 

「さっきも言った通り、細かい内容に踏み込んで聞いたこたぁない。ただ……字面と歴史的背景から想像ができないってわけでもないぜ」

 

「あら、興味深いですわね。どのようにお考えか、お聞かせいただいても?」

 

問いかけに応じるスバルにフレデリカは口元を隠して微笑。

牙の並ぶ口腔を隠して笑うのは、彼女にとってはもはや染み付いてしまった癖のようなものだ。しきりにそうしている姿をよく見かける。

それだけ多く笑うのに、笑顔を他者に見せたがっていないのだとも思う。

 

目をつむり、頬を指で掻きながらスバルは「そうだな」と前置きし、

 

「その戦争がどれぐらい前にあったもんなのかもわからないけど、事の起こりが『嫉妬の魔女』と無関係じゃないってことぐらいは想像がつく。エミリアの王城での腫れ物扱いと、ハーフエルフが色んな人に嫌われてんのもわかってっからな」

 

絵本にも載せられ、知るもののいないとされるほどの絶対悪の象徴『嫉妬の魔女』。銀髪のハーフエルフである、という類似点だけでエミリアがあれほど不当な扱いを受けるのだ。ならばその余波――些細すぎる点を切っ掛けに、諍いが起きることはスバルにも想像がつく。

 

「ハーフエルフってのはつまり、人間とエルフの間の子ってことだろ?そのハーフエルフを忌み嫌うって流れが生まれるなら……そもそも、人と別の種族の間に生まれるハーフ自体を異端視する偏見が出てきてもおかしくないよな」

 

「……どうぞ、続けてくださいまし」

 

「想像の話でしかないけど、ハーフエルフ排斥の流れはハーフ排斥の流れに繋がる。そしてもっと極端なことを言い出せば、そもそもハーフが生まれる原因になりかねない亜人たちそのものの存在がおっかない……なんて考える奴らも出てくるかもな」

 

スバルの知る限り、この世界においてももっとも多数を占めている種族はやはり人間だ。エルフの存在や獣人三姉弟のような獣人も確認されているが、王都で数日過ごした実感からしても、人と異なる亜人種の絶対数は人間より少ないようだった。

そして多数であるということは、ただそれだけのことが正義にもなり得る。

 

「全部が全部、みんながみんなそんな思考に寄ってくとは思わねぇけど、声のでかい奴が目立つってのはどこにいても同じようなもんだろ。それで亜人憎し……本音は亜人恐し、かな。そんな不満が溢れ出してなんやかんやしてる合間に」

 

「人と亜人種の間で対立が勃発。燻っていた火種はやがて火の勢いを強くして燃え広がり、ルグニカ全土へとその手を伸ばしていったのですわ」

 

スバルの言葉を引き継ぎ、沈鬱な声音でフレデリカがそうこぼす。

片目をつむり、わずかに俯く彼女を眺めるスバル。と、フレデリカは一度頷いてからスバルの方へと顔を上げると、

 

「ほとんど補足する必要もないぐらい、反論の余地のない推測でしたわ。……本当に詳しい内容を聞いたことがないんですの?」

 

「ねぇよ。これでほとんど合ってるってんなら、俺のイマジネーション力の勝利だ。もしくは読書経験……ラノベとかじゃ、人種違いの対立はありふれてっしな」

 

それでも、事実としてそういった問題を意識したことは当然スバルにはない。

元の世界にもいわゆる人種差別というものは存在したが、それはスバルにとっては遠い世界の話であり、それこそ異世界の問題と並べても大差のない認識だった。

自分は自分、他人は他人と冷めたものの考え方をしていた、といえばそれも正しいのだろうが、実際には目を背けていたとでもいうべきか。

 

「ただ、問題勃発に想像が追いつけても、解決まで頭ひねるのは無理だぜ。でも過去形ってことは、少なくとも亜人戦争自体は片がついてるんだろ?」

 

「ええ、一応は。それでも戦争の爪痕は深く、未だに亜人種と人間の間の子に対する偏見の芽は深く根付いているのですけれど」

 

自身もその偏見の対象とされる出生だからか、フレデリカの言葉には外から話を聞いただけでは持つことのできない重みのようなものが含まれていた。

この先を聞いていいものか、とスバルは言葉を投げかけることに躊躇を覚えるが、そんなこちらの意図を読み取ったようにフレデリカは吐息し、

 

「気を遣わせてしまいまして申し訳ありません。お話の続き、ですわね」

 

「無理しなくていいぜ、って言ってやりたいんだけど、この話が俺の聞きたいことに直結するんならそうも言ってやれねぇ。無理してくれ」

 

「あらあら。スバル様は、人をやる気にさせるのがお上手ですのね」

 

自分勝手なスバルの発言を好意的に解釈し、フレデリカは自分用のカップを傾けて舌を湿らせてから、

 

「亜人戦争の始まりは、およそ五十年前。そこから十年近くも続いて……終結は四十年前と記録されていますわ」

 

「十年……長ぇな。俺の地元でも歴史上、百年戦争とか三十年戦争とかあったみたいだけど」

 

歴史系の小説などに造詣が深くないため、それらの事例は教科書などでちらりと名前を見た程度の知識だ。ただ、そんな名前がついているからには、最低限それだけの期間は続いた戦争なのだろう。

三十年も百年も、誰かを憎んで戦い続けるなど、考えただけでも空恐ろしい。

スバルなど、まだ異世界にきてほんの二ヶ月ほどだというのに。

 

「それでこんだけ疲労困憊なのに、何十年も誰かとポコスカ戦ってらんねぇよ」

 

「ともあれ、一つの亜人族の集落と人族との間から始まった戦争。本来であればその場限りで収まるはずだった争いでしたのに……その後に起きた事件のせいで、戦争の熱は一気に加熱。各地で血で血を洗う凄惨な争いが始まりましたわ」

 

「その後の事件、って?」

 

「最初の争いが起きてすぐ、事態を重く見た当時のルグニカ王は側近を和議の使者として送りましたの。亜人側も複数の種族の族長が集まって、使者を迎え入れての交渉で収拾を図るはずだったのですが……」

 

言葉尻を濁すフレデリカに、スバルは無言で首を傾げることで先を促す。その仕草にフレデリカは瞑目し、

 

「会談に出席した方々――王城からの使者と族長たちが揃って、その場で皆殺しにされてしまったのですわ」

 

「皆殺し……?誰が、なんのために?」

 

「下手人は今をもって不明。ただ、当時の人族と亜人族は揃って、『相手側の企みだ』と判断したようですわ。結果、小さな火種は大火となり、易々と消し止めることができずに十年……ということになったんですの」

 

「なにやってんだよ。もっとちゃんと話し合って……ってのは、理想論なのかよ」

 

当時の人々の感情を思えば、それはあまりに神からの視点というべきなのだろう。

王城から派遣された王の側近。会談の場で殺害された彼の名誉を思えば、犯人不明で引き下がることは沽券に関わる。一方で亜人たちの方も、族長たちを揃って殺される結果になったのだ。命を数で数えるのもひどい話だが、純粋に比較すればこちらの方が被害が大きい。

まして両者の間には、『嫉妬の魔女』の存在を起因として生まれた、種族間のしがらみという下地がある。

関係の修復を始めることが困難であり、そこで足踏みしている間に生じた次の問題への対処が遅れ――後手に回り後手に回り、悲劇を招いたのは想像に難くない。

 

「亜人戦争は最終的に、亜人族の降伏――といった形で終結しています。といっても亜人族が会談の件での加担を認めたわけではなく、純粋に争い続けることの無意味さを先に認めたという形ですが」

 

「個人的には泥沼のケンカは先に折れた方が賢いって思うけどね。おまけにこれって内戦みたいなもんだったんだろ?国としちゃ得るものがねぇよ」

 

「実際その通りで、ルグニカはこの亜人戦争にかまけている間に国力を大きく落としましたわ。当時の周辺国の状況が落ち着いてなかったのが幸いしましたが、あるいは疲弊したルグニカは他の国に取って代わられていたかもしれません」

 

不幸中の幸いというべきか、ルグニカを除く三国も自国のことで手一杯の時期であり、ルグニカは背中から刺される事態を回避するに至った。

その時代のピンチに勝るとも劣らない危機的状況が、今まさに国に襲いかかっているわけだが。

 

「しかしまぁ、長々続けた戦争を終わらせるって決断できたのもすげぇや。かなり勇気のいる話だろうし、強硬派の反感考えたらなかなかできねぇよ」

 

「……その強硬派の心が折れるぐらい、とんでもない存在が人族にはいたものですから。当時の剣聖、テレシア・ヴァン・アストレア様の剣技の冴えの前に、あらゆる亜人族が頭を垂れたとか……どうされましたの?」

 

「いや、知らないわけじゃない名前が出てびっくりしただけ。世間狭いわ」

 

何度か聞いた、ヴィルヘルムの奥さんの名前がそのテレシアだったはずだ。

当時の剣聖、つまりはラインハルトの先々代あたりになるのだろうか。それを預かる身であった女性が単身で、その十年も続いた戦争の幕を下ろすほどの活躍を見せたと聞かされると、なるほど剣聖という存在のデタラメさに納得ができる。

 

「まぁ、亜人戦争の流れに関しちゃ理解できた。そんでもって、それに派生するだろうっていくつかの問題点にもおおよそ想像がつく」

 

「先ほどのスバル様の推測で、ほとんど間違いありませんもの。存外に頭の回転の早い方のようで、見誤っていたものと驚いていますわ」

 

「褒められてるってポジティブに解釈しながら続けると、亜人戦争は終わったけど、亜人に対する偏見の目は簡単には消えない。もちろん、人目のあるとこじゃそんな反感は大っぴらに出るもんじゃないだろうけど」

 

王都でも、果物屋が並ぶ大通りでは普通に人族と亜人族がすれ違って生活していた。当たり前の光景が当たり前になるまでにどれだけの苦難があったかは知れないが、ああやってそれが日常になっている場所がある反面、その日常をいつまでたっても構築できない、日の当たらない場所は必ず生まれる。

 

「人数が少なくて、余所者が入ってこない閉塞的な村だとか……そういうとこにちょっと問題を抱えた奴がいると、集中砲火を浴びる気がするよな」

 

「私と弟は、まさにそんな環境にあったといっていいでしょうね」

 

過去を思い出す苦痛に眉根を寄せ、フレデリカは弟――ガーフィールを初めて素直にそう呼んで、どこか遠い眼差しをすると、

 

「私と弟は父親違いの姉弟ですの。名乗っている家名が違うのはそのせいで……私は父の家名を。弟は母の家名を名乗っていますわ」

 

「名字っつーと、確かフレデリカは……バウマン?」

 

「ええ。そして弟はティンゼルと名乗っているはずですわ。母はその……とても要領が悪い人で、それと運も悪い人だったようで」

 

言葉を選ぶが選び切れていないフレデリカ。彼女の言いたいことがわからずに無理解を表情で表すと、彼女は「お恥ずかしいのですけれど」と前置きし、

 

「母は借金の形に売り払われそうになるところ、その奴隷商人を狙った亜人族の盗賊団に身柄を拘束されて……そこで出会ったのが私の父だとか」

 

「あれ!?ちょっと待って!なんか心の準備なしに聞けなそう!」

 

「ただその父ともすぐに死に別れてしまって、まだ赤ん坊だった私を連れて途方に暮れていたところを別の亜人族の集団に捕まって。またそこで今度はガーフィールの父親と出会うことになって……」

 

「待った待った、俺が悪かった!まさかここまで重い感じの流れになるとか思ってなかったもんだから!」

 

「ですからあまり重たくないように手短に。とにかく、そこでガーフィールが生まれるんですが、やはり弟の父とも一緒にいられなくなって親子三人途方に暮れて、どうしようもなくなっていたところを、このメイザース家に拾われた形ですわ」

 

重たい過去をあっさりと打ち明けて、フレデリカは双眸に郷愁を浮かべて吐息する。それから彼女は自分の座る椅子の手すりを撫でながら、

 

「当時、すでにメイザース家の当主は十代前半だった旦那様……ロズワール様が継いでらしたので、私と弟にとっては旦那様は本当の意味で恩人ですわ。こうして身の回りのお世話をさせていただけるのも、光栄に思っていますもの」

 

「それで二人は『聖域』に入れられて、そこで暮らしてたってことか……ところで、ちょっと聞きづらいんだけど、お母さんってどうなったんだ?」

 

今の彼女らの出自を聞く限り、二人の母親はどうやら純粋な人族らしい。つまり『聖域』に入っても普通に出てこられる立場なのはずだ。その上で、その存在を『聖域』はもちろん屋敷でも見かけていない。

まさか、と最悪の想像をするスバルだが、そのスバルにフレデリカは首を振り、

 

「心配されているようですけれど、ご安心くださいまし。母は私と弟をロズワール様に預けると、その足で屋敷を出て行方をくらませましたの。その後の足取りはわからないまま。息災であれば、ぐらいには思っておりますけれど」

 

「――――」

 

あっさりとそう言ってのけるフレデリカの態度に、スバルは二の句を継げずに押し黙る。スバルにとって最悪の想像は死別だったのだが、現実はいっそう酷薄に二人を裏切らせていった。

だが、そうした事情を聞いて深まる疑問がある。それは、

 

「そんな風に別れた母親なのに、ガーフィールの野郎は家名は母ちゃんに合わせてんのか。フレデリカの方は父親なんだろ?」

 

「記録もなにも残っていませんので、母の記憶をさらに人伝……と頼りないものではありますけれど。弟が母の家名を名乗るのは……あの子が母を知らないことと、悪ぶっているくせに情が強いところがあるからですわ」

 

「情が強い……」

 

ガーフィールを思い浮かべて、スバルは彼の人物像を己の中で明文化する。

考えるより手が出る方が早く、口が悪くて礼儀もなっていないが、筋は通すし話が通じないわけでもない。頭が悪いと自分を評価しているが、考えていないわけではないし思考停止もしていない。古き良き不良像を引きずるチンピラ、という印象だ。

筋を通す、という一点を評価すれば、義理人情に厚そうな好漢であることを否定はしないのだが。

 

「スバル様。――『聖域』の結界が、どうやって対象を選別しているかご存知ですか?」

 

物思いに耽るスバルに、ふいに投げかけられたフレデリカの問いかけ。

その意味が飲み込めず、反応が遅れるスバル。きょとんとした顔でフレデリカを見返し、スバルは「えっと」と自信なさげに、

 

「正直、わかってない。結界の有無は間違いないとはいえ、そもそもその結界を俺は感じたりしないからな。魔法的なもので、通る人間をチェックしてるんだろうとは思ってるけど……」

 

「結界は通り過ぎる存在の、その体の中の血脈を探っているのですわ。そこに人族の血と亜人族の血。その二つをはっきり確認できる相手を弾く、それがあの結界の本質ですわ」

 

「……なにが、言いたい?」

 

突然に語られる結界の選別方法。その情報の開示の意味が読めず、スバルは声を低くしてフレデリカへ問いを投げ返す。それを受け彼女は一つ小さく頷き、

 

「私が結界を抜けて、『聖域』の外へいる理由がお分かりになりますか?」

 

「……いや、正直わからない。結界の条件を聞いてなおさらわかんなくなった。帰りの道すがら、リューズさんが結界近くて体調崩してたのも見てたし、アレの効果が本物だってのは『聖域』に入るときにも」

 

ガーフィールとの強烈な初対面の直前、エミリアは結界を通り抜けて崩れ落ちた。あの強力さを思えば、その存在を疑うなど馬鹿らしい――。

 

「――あれ、なんで」

 

そのとき、スバルの脳裏を電撃が走った。

それはリューズを伴っての避難民を連れた帰路。森を抜け、結界を通って『聖域』の外へと向かい、案内役のリューズと別れたときに感じた違和感。

その違和感の答えだ。スバルは億劫そうに結界から距離を置くリューズを見ながら、そのことが引っかかっていたのだ。

 

「条件が同じなら……なんで、結界近くまできてたガーフィールの野郎はあんなピンピンしてやがったんだ?」

 

結界を乗り越えてきたスバルたちを奇襲し、パトラッシュごと竜車を投げるパフォーマンスを発揮したガーフィール。

あの時点で彼が本気を出していないことは間違いないが、結界を通っただけで意識を奪われたエミリアや、近づいただけで体調を崩しかけたリューズのことがある。あまりにも、ガーフィールの立ち振舞いは彼女らのそれと異なりすぎる。

 

――まるで、結界の影響を彼の肉体が受けていないかのように。

 

「先祖帰りの特性がありますから、弟は一見、亜人族の血が濃いように思えるんですけれど、実際はそんなことはないんですのよ。――私と、同じで」

 

「血の濃さが、結界がハーフとそうでない人を見分ける条件だってんなら……その条件から抜け出すぐらい、どっちかの血が薄ければ?」

 

「私と弟の父はそれぞれ違いますが、両方とも純粋な亜人ではありませんでしたわ。両者ともハーフ、そして人族の母と交われば、生まれるのは亜人の血を四分の一だけ受け継いだ中途半端な存在」

 

「クォーター……それが、お前が結界に引っかからなかった理由」

 

ハーフを弾く結界だから、クォーターは弾かない。一休さんのトンチのような話の持っていき方だが、様々な疑念の一部がそれを事実だとスバルに教えている。

フレデリカの『聖域』脱出に関して、言葉を濁しながらも彼女は例外であると語ったリューズの真意も、それを聞いた今ならば理解できようというものだ。

だがそれはつまり、別の疑念をも誘発させる。それは、

 

「待て。じゃあ、つまりガーフィールも『聖域』の外に出られるってことなのか?その気になれば、『試練』の成否なんて関係なしにあいつは」

 

それが事実であるのなら、驚きではあるが歓迎すべき事態でもある。

彼を『聖域』から引っ張り出すのに結界が邪魔であるという前提がなくなれば、エルザ襲来に際して彼の力が必要な場面に、彼を連れ出す可能性が見える。

すでに今回、エルザ撃退の芽はほとんど潰えたものとして、屋敷に残る面々を外へ連れ出す方法ばかりを考えていたのだが――、

 

「あいつが外に出られるっていうんなら、それなら……」

 

「確かに、弟は私と同じで『聖域』の外へ出ることができます。私が『聖域』を出る際にも、一緒に行こうと結界の傍までは行きましたから。でも……」

 

そこで言葉を切り、フレデリカは明るい材料を見つけた気でいるスバルを見つめる。その彼女の双眸に湛えた感情、それがあまりにも深く沈んでいて、スバルは一気に自分の熱が冷めるのを感じる。そしてそのスバルへ彼女は、

 

「弟は『聖域』へ残りました。そして、『聖域』が解放されない限り、ガーフィールが外へ出ることは絶対にないと思います。情の強い、優しい子ですもの」

 

「情が強いって……まさか」

 

思い至った思考に眉を上げるスバル。その驚きを肯定するように、フレデリカは顎を引いて袖口で己の口元を隠しながら、

 

「外に出られない『聖域』の住民たちを置き去りにして、それで外へ出てこれるような子じゃありませんの。良くも悪くもまっすぐで……手のかかる、弟ですわ」