『鬼は外、道化二人は内』


 

息を弾ませ、部屋の中に飛び込んできたスバルに驚きの視線が向けられている。

両者ともに、あまり驚いているような姿とは縁遠いと思っていた相手だ。その反応に小気味よいものを感じて、浮かべた凶悪な笑みがさらに深まる。

 

「――賭け?」

 

呟き、左右色違いの目を細めるのは寝台に横たわるロズワールだ。

普段は道化のメイクが施されているはずの顔が、今はメイクを落として素顔をさらしている。ループする時間の中、一度だけ見たことがあるロズワールの素顔だ。

 

白塗りの化粧の下の肌は青白く、アイラインも消された顔つきは鋭さよりも純朴さのようなものが感じられて、ロズワール個人の印象とあまりに違いすぎる。メイク時は計算高く胡散臭い人柄に見える顔が、メイクを落としただけで純朴そうな好青年に早変わりだ。

美形は何もしなくても美形、と内心でロズワールの素顔を寸評しつつ、スバルはロズワールの呟きに顎を引き、

 

「そう、賭けだ。俺とお前で願いをかけて……真剣な、一発勝負だ」

 

「――――」

 

指を一つ立てて、堂々とスバルはロズワールに宣言する。目を細め、スバルの提案を吟味するような顔をするロズワール。が、ロズワールが何事か口にする前に、二人の視線の間に割って入る人影――桃髪のメイド、ラムだ。

ロズワールを背後に、スバルと向かい合うラムの視線の色は厳しい。常日頃、隙あらばスバルをなじるためにラムの視線は鋭いが、今はそれらのときとは比較にならない。

 

「待ちなさい、バルス。突然に部屋に押し入ってきて、何を言い出すかと思えば……療養中のロズワール様に、ご負担をおかけするつもり?不敬に過ぎるでしょう」

 

「病人怪我人ってのは、現状の立場を考えると手を抜く理由としちゃ弱いな。舌の滑りと腹の黒さにそこんとこは無関係だし……無理や無茶は、多少してもらうぜ」

 

「バルス――」

 

「誰になんて言われようと!」

 

苛立ちと剣呑さをブレンドした色を瞳に宿すラム。しかし、彼女が動く前に先手を取ってスバルが高らかに足を踏み鳴らす。警戒し、足が止まるラムを指差し、

 

「俺の方には止まる理由も躊躇う必要もない。それぐらいのことが、俺とお前の間にはあったはずだな、ロズワール」

 

「――ふむ」

 

「それとも、ちょっと日記帳と内容がずれたぐらいで不貞腐れてやる気ゼロか?後続のお前のために、ちったぁ無理してやろうって気概は?」

 

「……興味深い、言い分だね。後続の私、か」

 

『死に戻り』に直接的に触れない形で、ロズワールに伝わるよう言葉を作るスバル。ラムが無理解を示すように眉を寄せているが、ロズワールは合点がいった様子だ。

生気に欠けていた表情にかすかに血の気が戻ると、ロズワールは前に立つラムの背中に声をかけて、

 

「ラム。控えて……いや、すこーぉし表に出ててもらえるかな」

 

「……っ。ですが、ロズワール様」

 

「大丈夫大丈夫。二人きりになったからって、いきなり襲い掛かってくるほどスバルくんは無分別じゃーぁない。返り討ちだって容易いことだとも。ねーぇ」

 

「ああ、情けねぇことにな。武力で競うなら、ベッドから引きずり下ろす自信もねぇよ」

 

手ぶらの両手を振って肯定するスバルに、ラムは歯噛みするように悔しげに頬を歪めて、それからロズワールに再び憂いを帯びた視線を向け、

 

「――どうぞ、ご無理はなさらないでください」

 

と、それだけ告げると、厳かに一礼して部屋の出口へ。スバルの隣を抜ける直前、ちらとスバルの方を横目にし、

 

「――ロズワール様に何かあったら、承知しないわよ」

 

「自棄を起こしたあいつが何かしでかさないか、そっちの方を心配してほしいね」

 

肩をすくめて出ていくラムを見送り、扉が閉まったのを見てからスバルはロズワールに向き直る。ロズワールは思案げな顔つきのまま、片目をつむって黄色の瞳にスバルを映し、

 

「昨晩、別れ際に見せた顔つきとはまた、ずーぅいぶんと違っているじゃーぁないの。たった数時間で、何か心境の変化でも?」

 

「心境の変化、には違いねぇかな。説教食らって、殴り合いで友情を……いや、殴り合いにしては一方的過ぎて確認作業って感じじゃなかったが」

 

オットーに殴られた頬を触って、かすかに赤みが残る今朝の感覚を思い返す。

案外、ひょろい体格に見えてオットーの体力はなかなかのものだ。たぶん、くぐった修羅場の数の違いだろう。スバルもこの世界にきて以来、そこそこの修羅場をくぐってきたつもりではあるが、まだまだ及ばないらしい。

 

「それはそれで、どんな壮絶な世界なんだよ……」

 

「そうかいそうかい。まーぁ、追い込みが足りないだろうってのは昨日も確認したところだったわけだーぁけど、こうも復帰が早いと考え違いではなかったようだね」

 

「けっこう限界極まってたけどな。……俺が単純って、だけのことじゃねぇか」

 

オットーの言葉と拳で、ねじくれ曲がった根性が叩き直された気分だ。

ひどく乱暴で、単純なやり口だったと思う。友人にぶん殴られて道を正されるなんていかにも青臭くて、他人事なら小馬鹿にしていたに違いないのに。

 

「でも、悪くねぇと思うぜ。行き詰まりがどうにかなりそうだって、ダチの力を借りて見つけられんのもいい気分だ」

 

「甘いね。青くて、若い。……この世の苦しみは、究極的には己でしか解決できない。友人に頼るなど、惰弱な考えは君には不要だ」

 

「人に頼って、縁に頼って、気持ちに頼って……それで、駄目かよ?」

 

「駄目だねーぇ」

 

「そうかよ。――それじゃ、勝負するしかねぇな」

 

ロズワールの表情が変わる。スバルは踏み込み、寝台の上のロズワールの方へ歩み寄ると、指を弾いて音を鳴らし、その指をロズワールへ突きつけた。

 

「言った通り、賭けをしよう。チップは願いで、ベッドは一発限り」

 

「聞くだけ、聞こうじゃーぁないの」

 

ロズワールが頭から提案を蹴らないのを確認して、スバルは突きつけていた指を天井へ向け、前提条件を検める。

 

「今回、俺はお前の希望に沿えない。今回に限らず、今後も沿うつもりはねぇが……そう言い張ってても俺とお前じゃ平行線だろうよ。だから、期限を区切ろう」

 

「期限?」

 

問い返すロズワールに、スバルは「ああ」と頷いた。

唇を舌で湿らせ、スバルはロズワールの双眸を真っ直ぐ睨みつけて、

 

「この周回で、俺は俺のやり方を突き通す。それでしくじるようなら……次からはお前の望むように動いてやる。それが、期限だ」

 

「――やり直せる力を持つ君が、その権利を放棄するというのかね?」

 

「お前も言ったろ。俺は追い込まれ方が足りてねぇって。俺もそう思うぜ。――やり直せるなんて、調子こいたこと考えた結果があの様だ」

 

もちろん、その考えを根底から否定するつもりはない。

この残酷な世界で、『死に戻り』抜きでナツキ・スバルに何ができる。これまで『死に戻り』によって得た恩恵を否定するつもりも、恥知らずな真似もしない。

ただ、考え方を変えただけだ。やるだけやり切って、その末の『死に戻り』であるのなら甘受しよう。だが、そうでなしに、生き切る前に死ぬのであれば、

 

「それは俺のために泣いてくれる人たちに対する冒涜だ。それは、もうやらねぇ」

 

「そのための、自分への制限……かーぁね。私としては願ったりかなったりといってもいい条件だーぁけど、それを守るという保障は?」

 

「保障、ね」

 

「そう、保障だ。それは大事だよーぉ?なーぁにせ、やり直せる君はこの約束をなかったことにだってできるわけだーぁからね。失敗して、やり直して昨夜にでも戻って、そーぉれでしらっと別の方法を試してみることだって……」

 

「ロズワール」

 

懸念を口にするロズワールの名前を、スバルは静かな声で呼んだ。

その呼びかけに言葉を切ったロズワールは、自分を見るスバルの視線を前に、わずかに目を見張る。そして、スバルは声の調子を変えないまま重ねる。

 

「俺が、それをすると思うのか」

 

「――――」

 

「俺が、それをすると思うんなら……話は成立しない。それだけのことだ」

 

スバルの言葉にロズワールは目を細め、それから両手を軽く掲げてため息をこぼす。

彼は「いやいやーぁ」と言葉を継ぎ、

 

「話の続きを聞こうじゃーぁないの。判断は、最後でいい」

 

「……ああ、そうしてくれ。さっきも言った通り、期限を区切る。俺は今回、この一回に全部を注ぐ。駄目ならお前の言うように、やってやる。どっちにしろ……このやり方で駄目だってんなら、たぶんもう目がねぇ」

 

「自信がある、というわけではないね。ただ、覚悟があるだけか。……なーぁらば、私もまたそれに応じなくてはなるまいね。さて、君は期限を区切り、今回が最後だと提示した。すると、私にはなーぁにを求めるのだろうね」

 

いくらか、口調に普段の調子が戻り始めているロズワール。

交渉、話し合いに互いの意思を乗せ、交換し合いながらスバルは手を叩いた。

 

「俺の要求は簡単なこった。今回、仮に俺のやり方が事態を打開した場合、つづられる未来はお前の望みとは違う形になる。そうなる場合、お前は福音書と違う世界を生きる気力ってやつをなくすんだろうが……それ、なしな」

 

「なし、というのは私にやる気を失うなということかね?しーぃかし、いくらなんでもそれは要求としては難しいと言わざるを得ないのではないかな。無論、表面上を取り繕うことは可能だろうけーぇど、内心の部分はいくら私でも……」

 

「別にさ、ロズワール。俺は、お前とずっと敵対してやっていきたいわけじゃねぇんだよ」

 

「――うん?」

 

スバルの言い分が理解できないと、ロズワールが首をひねる。

そのロズワールの態度に、スバルは自分の鼻を指で擦りながら、

 

「福音書と違う未来になって、お前が定まってる未来とルートが外れることを嫌がってるのはわかってる。でも、俺はその福音書と違う形の未来でも、エミリアを王様にするために横でわちゃわちゃし続けるんだよ。やり直しの力だって、きっと頼ることもある。――過程はともかく、最終的な結果はきっとお前の目的と外れない」

 

「――――」

 

「ロズワール、俺の要求は簡単だ。もし仮に、俺が福音書と違う形で進める未来を開いたら……お前は、その福音書を捨てて一緒にこい。エミリアを王様にする。そのために、お前の力は必要だ」

 

どれだけロズワールが許し難い行いに手を染めていたとしても、エミリアの目標のために彼の力は必要だ。スバル個人としては、わかり合えない理解できないと嫌悪を抱いたこともある。この時間軸でも、このまま放置すれば彼の策謀は取り返しのつかない事態を生む。――だが、その事態はスバル自身の手で摘み、決定的な溝を回避する。

 

スバルの提言に、ロズワールは深く長い息をついた。

目をつむり、考え込む姿勢の彼は己の顎に触れて、唇をゆっくりと開き、

 

「君の求める、最終的な落とし所が……それかね」

 

「都合のいい話だけどな。都合のいい話、大好きだぜ、俺。エミリアが頑張りまくって王様になって、俺がそれを隣で祝福して、お前も囲ってる連中の一人になれよ」

 

「長く、ながーぁく、一つのやり方をしてきた私には難しい提案だよ。そんな私を動かそうってーぇいうんだから……条件は、厳しいものだろうね?」

 

「ああ、そうだな」

 

片目をつむるロズワールに、スバルは頷いてから二本の指を立てた。

ロズワールの視線がその指の先端に集中するのを感じながら、スバルは立てた指の一本を軽く振り、

 

「条件は二つだ。お前が不可能だ、無理だって、そういった条件二つ。その条件をクリアしたとき、賭けは俺の勝ちだ」

 

「そして条件が未達成の場合、私の勝ちだ。君には、人間性を捨ててもらう」

 

低く重たい口調で言って、ロズワールが両目でスバルを見た。頷き、スバルはロズワールの先を促す視線の前で、一度、歯を噛んでから切り出す。

 

「まず、一つ目の条件。――ガーフィールを味方につけて、外に連れ出す」

 

「――――」

 

「『聖域』の内側に執着するあいつを外に連れ出すのは無理だって、お前は言ったな。俺もそう思う。そう思うけど……あいつの力は、今後も必要だ。『聖域』の人たちの感情を考慮しても、あいつの駄々っ子をそのままにはしておけねぇ。お前が無理だって言い切った、ガーフィールの説得を、やり遂げてやる」

 

「――二つ目は」

 

一つ目の条件を聞いた瞬間、ロズワールの瞳の奥に暗い感情が過った。

ただ、そのことに言及せずに次の条件を求めるロズワールに、スバルは頷いて、

 

「――エミリアに、『試練』を突破させる。墓所の『試練』を乗り越えて、『聖域』を解放するのはエミリアだ。それは、俺じゃない」

 

「不可能だ!」

 

声を上げ、ロズワールがベッドを掌で強く叩いた。

乾いた音が鳴り、顔を怒りの形相に歪めるロズワール。彼は肩を怒らせ、スバルに向かって指を突きつけると、

 

「昨夜も告げたはずだ。アレに『試練』は突破できない。そして、ガーフィールも『聖域』への執着を捨て去ることなど、できるはずがない!」

 

「それこそ、やってみなくちゃわからねぇだろうが」

 

「そうとも、やってみなくてはわからないことだ。そして、君はそれを何度もやってきたからこそ、私の前でああも打ちひしがれていたのではないのかね!?あの君の姿が、そして今回の君の覚悟こそが、二人が希望するに値しない存在であることの証拠だ!」

 

叫ぶように言って、ロズワールは大きく肩を上下させる。荒い呼吸を繰り返す彼の姿に、しかしスバルはいたって平然とした顔つきのまま、

 

「ずいぶんと、気合い入った怒り方しやがるな」

 

「なんだって……?」

 

「お前にとっちゃ、俺の方の条件が厳しい方が有利になるってもんだろ。それで条件が厳しいって、怒り出すのは筋違いってもんじゃねぇのか」

 

「賭けとして成立するか否か、という次元の話だ。不利どころか正当性があやふやになれば、賭けの結果そのものが台無しになりかねない。私が注意するのも当然のことだろう」

 

スバルが不利すぎ、自分にとって有利すぎる条件の提示にロズワールは不信感を抱いた様子だ。だが、スバルはそんなロズワールの反応に頬を歪めた。凶悪に、凶悪に、笑みを深めた。

 

「ロズワール、勘違いしてるみたいだな」

 

「…………」

 

「俺が不利すぎる?確かに、パッと見厳しい条件ってのは間違いねぇよ。これぐらいやって初めて、お前の長年の計画ってやつを修正させる面目も立つって考えがないわけじゃねぇ。ないわけじゃねぇが……それとはまた別だ」

 

無言のロズワールに、スバルは笑みを浮かべたまま、

 

「お前が言ったんだぜ、ロズワール」

 

「――――」

 

「追い込まれた俺が、最強のカードになるんだ。――お前の相手は、お前が望んだ形とは違ぇが、最強のカードに違いねぇぜ。それで、まだ不服か?」

 

啖呵を切るスバルの発言に、ロズワールは無言。

ただ彼はジッと、スバルを見つめながら息の調子を整えている。それから、息を落ち着かせたロズワールは、指を一つ立てると、

 

「――契約を」

 

「――――」

 

「いいだろう。君の提示した、今の条件を呑もうじゃーぁないか。――ガーフィールの呪縛からの解放と、エミリア様の『聖域』の解放。その両方が成ったとき、私は私の計画を廃案し、君の作る道筋を行こう。そのための契約を、交わそう」

 

立てた指の先に、淡い光が灯る。

マナの集中、虹色のそれはかつてユリウスがペテルギウスを滅ぼす際に生み出した、複数属性を束ねた際に生じる光に良く似ていた。

 

「ゲートを通じて、互いの契約を魂に刻むんだ。他の誰を欺けても、己の心を欺くことはできない。――魂に刻まれる契約は距離も時間も、世界すらも越えて継続する。君のやり直しに対しても、効果があることだろうね」

 

「んだよ、どうにかする手段があるんじゃねぇか。……ただ、まぁ俺にとってもそっちの方が都合がいいな。お互いに契約で縛るんなら、賭けに負けたお前が駄々こねるのを殴りつける手間が省ける」

 

「軽々しく見ているわけではないようだが……いいだろう」

 

契約を受け入れるスバルの姿勢に、ロズワールは多くを語らない。

指先の輝きがスバルの胸の真ん中へ当てられ、そこから何かが体の中に沁み入る感覚。直後、全身の毛穴が開くような波動を内側から感じ、スバルは息を吐く。

 

「あ、は――」

 

「同じように、私の魂にも刻もう。――ナツキ・スバルの契約が履行されしとき、ロズワール・L・メイザースの契約もまた履行される」

 

同じように、ロズワールの胸の上で虹色の光が弾ける。

一瞬、ロズワールの全身にその光が伝播し、瞬きの直後には元通りの姿だ。

 

「これで、終わりか?」

 

「終わりだとも。……もう、引き返せはしない」

 

互いに、逃げられない線引きをしたことを確認して、スバルは小さく息を呑む。

そして、ロズワールは己の胸に手を当てると、

 

「君が条件の達成に最善を尽くすように、私もまた福音書の記述を成立させるために行動する。そのことを、咎めはしないね?」

 

「――五日後、雪降らすところも再現するか」

 

「……エミリア様が降らせないのなら、私がそれをすることになるだろーぉね」

 

つまり、制限時間は設定されたということだ。

五日後の大兎の襲来。それまでに、エミリアが『聖域』を解放し、スバルはガーフィールを呪縛から解放しなくてはならない。

 

「そうと決まれば、時間が惜しい。行動、開始させてもらうぜ」

 

「スバルくん」

 

ベッドから離れて、さっそく行動を始めようとするスバルをロズワールが呼ぶ。

振り返るスバルに、ロズワールはわずかに視線をそらし、

 

「屋敷の方も、同日だ。――せいぜい、健闘を祈るよ」

 

「俺が頑張りまくってしくじった方が、次の回でお前の期待通りの動きをしてくれそうだから……か?」

 

「――――」

 

スバルの返答に、ロズワールは無言で応じた。

その態度に苦笑して、それからスバルはロズワールを最後に指差し、

 

「ロズワール、調子が狂うからまたピエロの化粧しろよ」

 

「ふむ、そういえば……君と素顔で接するのはこれが初めてだったかな」

 

「この世界では、そうだな」

 

思わせぶりなスバルの言葉に、ロズワールが目を丸くしたのがわかった。

その反応を背中に感じながら、スバルは歩き出し、

 

「俺とお前の勝負だ。運命に翻弄されるピエロ同士――正々堂々、やろうぜ」

 

そう言い残して部屋を出る。

賭けの条件は成立だ。――故に、ここから始まる。

 

『聖域』解放をかけた、ナツキ・スバルの最後の挑戦が。