『誕生、エミリア陣営内政官殿』
うず高く積まれた資料の山を崩しながら、オットーは応接用のソファに座るスバルたちの話に耳を傾けている。
資料の中から必要な書類を取り出し、時おり羽ペンを走らせる。
紙の一枚に数式を描き、何がしか計算するとそれを資料へ書きつけ、すぐ近くの書類の記述と参照しながら判を押す。
流れるような手際と、忙しない目の動きはこちらに意識を傾けているのか悩むところだったが、合間合間に入る合いの手からして聞き流してはいないようだ。
エミリアが感心した顔でオットーの作業を見守る傍ら、スバルはつい先ほどまでの自分たちの行動とその真意を語り尽くす。そして、それを最後までスバルが語り終えるのと、オットーが羽ペンを音を立ててペン立てに戻したのはほぼ同時だった。
「なんだ、姉弟関係の改善ですか。……それなら僕に相談してくれたらいいものを」
「ってーと?」
「ようは兄弟姉妹のいる人間から、状況に即した助言が欲しいってお話だったんじゃないですか。それなら、一人っ子だらけの皆さんよりも、上にも下にも兄弟がいる僕の方が相談に乗れると思いますよ、ええ」
自信満々なオットーの態度に、スバルは思わず鼻白む。
オットーの家族構成について問い質したことはこれまでなかったが、彼の言い分を信じるとどうやら兄と弟がそれぞれいる兄弟の真ん中らしい。確かにそれなら、スバルたちにとって今まさに喉から手が出るほど欲しいアドバイザーに他ならない。
ただ、スバルが持つ懸念としては、
「でもお前、出来が悪くて家を追い出された立場だろ?円満な家族関係ならまだしも、絶縁状態に陥った奴の失敗談聞かされてもあんまり参考にならねぇよ」
「誰が不出来に呆れられて勘当喰らったってんですかねえ!?そんな話、いっぺんもしたことないでしょうが!僕ぁ、兄が実家を継いだもんですから、次男坊の自由として行商に乗り出したってだけですよ!これでも、兄や弟と比べても頭の回転は速いつもりでいるんですからね」
「そう思ってるのはお前だけで、実家は厄介者が追っ払えたことでホッとしてると」
「あんた僕がここにいることに不満でもあるんですか!?」
机を叩いて顔を赤くするオットーに、スバルは「とんでもない」と首を振る。
オットーがこの場にいないケースなど、考えただけでも恐ろしい。ただ、ついつい感謝を表に出すより先に憎まれ口が出てしまうだけだ。
それも、オットー・スーウェンという人物が持つ独特の人徳というやつだろう。
「でも、どうしてかオットーくんって頼れる人って雰囲気がないのよね。どうしてだろ……あんなに助けてもらってるのに」
「え、エミリア様まで……」
スバルの内心を、顎に手を当てて考え込むエミリアが代弁してくれる。彼女もスバルと同じように、オットーの人徳に中てられた被害者だったようだ。
その能力と反比例して、頼り甲斐という存在感が薄れていく男である。
「エミリアたんをこんなに困らせるなんて、お前はなんて罪深い野郎なんだ」
「言いがかりすぎる!僕が何をしたぁ!」
「それでオットーくん。できたら、あの二人をどうしたらいいと思うかお話を聞かせてくれると嬉しいんだけど」
「さらっと本題に入った!あんたら主従揃ってなんなんですかねえ!」
ひとしきりオーバーリアクションしてから、オットーは騒いでも無駄であることを悟った顔になる。椅子の背もたれを鳴らし、彼は自分の灰色の髪に手を当てると、
「そうですね、まず大事なのはお互いの気持ちだと思いますよ。僕の見たところ、ガーフィールの方は問題ないでしょう。彼が意地っ張りなのは子ども特有のものですし、本心では家族大好きですから仲直りしたがってるのは目に浮かびます」
「うん、私もそうだと思う。ガーフィールの方は仲直りしたがってると思うの。なかなか歩み寄れずにいるのは、フレデリカの方みたいで」
「フレデリカさんの方は若干、難しい立場でしょうね。姉という立場上、仲直りするには目上である彼女が譲る必要があると思います。ただ、話を聞く限りだとフレデリカさんの方に落ち度はありませんからね。純粋に姉としての度量を示せるか。目下の癇癪にどこまで寛容であれるかが、今回の経緯の焦点になると……どうしました?」
理路整然と並べ立てるオットーに、スバルは凝然と目を見張っていた。それを見咎めた彼の言葉にスバルは「いや」と首を振り、
「想像以上に真面目な意見が飛び出して、どこでネタをぶっ込むべきか悩んでてな……」
「真面目な話だから真面目な過程辿って真面目に結論したらいいんだよ!」
「すまねぇ。俺の力不足で、お前のややこしい前振りに対応できなくて……」
「あんたこの問題片付けたいのか掻き回したいのかどっちなんですかねえ!?」
もちろん片付けたいのだが、根源的欲求に逆らうのもしんどいものがあるのだ。
スバルとオットーのそんないつものやり取りはさておき、エミリアはオットーの言葉に感じ入ったように頷いている。
それからエミリアは「それじゃ……」と言葉を継ぎ、
「先に解決しなくちゃいけないのは、フレデリカの気持ちの方ってことよね」
「まあ、そうなるかと思います。フレデリカさんの方も、ガーフィールが許せないなんてこじらせてるようには見えませんからね。実際のとこ、そこまで小難しい話にはならないと思いますよ。それこそ、時間が解決する類の……」
「それで解決させたくないから早急に何とかしようってのが今の目的だろうが。お前は最初から最後まで話の何を聞いてたんだよ、まったく」
「そこまで言われる筋合いがねえ!」
これまでと全く同じ決着を見そうになって、スバルは小馬鹿にするように鼻を鳴らす。憤慨するオットーだが、スバルは彼をさらに煽るように「それなら」と続け、
「その年上の方が見せるべき度量ってやつを、お前ならどんな場面で発揮する?弟もいたって言うんなら、喧嘩して兄貴が懐の深いところ見せてやる場面もあったはずだろ。その体験談が見たい聞きたい歌いたい」
「見たいと歌いたいは勘弁願うとして、そうですね、体験談ですか。実際、こう見えて僕はそれなりに家族関係は円満でしたのでね。僕以外の兄と弟ができた人だったというのもありますし、両親も優しくて……あれ、喧嘩した記憶が……」
「使えねぇ!!」
「な、なんてこと言うんですか!いいじゃないですか、家族円満で!一度も喧嘩したことない関係じゃ本物は宿らないとでも?そんなこたぁないでしょう!円満で大過なくある関係に何の文句があるんですか!」
「少なくとも今この場じゃ最悪の札を引いたよ!」
さぞや含蓄のある話が引き出せるかと思いきや、持ち札ゼロだったオットー。
日頃、スバルの無茶ぶりにもそれなりに対応できてしまう彼だから、おそらく家族関係においても罵声が飛び交う沸点まで達することがなかったのだろう。
あるいはスーウェン家においては、全員がオットーと同じ弄られ体質なのかもしれない。平和だが、それは虐げる者がいないが故の仮初の楽園だ。
「温室育ちのお坊ちゃんが……っ」
「なんかすごい罵られ方した気がするんですが気のせいですかねえ!?」
「……ふふ」
想像力の翼を羽ばたかせて罵るスバルに、オットーが叫ぶ。と、そのやり取りを眺めていたエミリアが、ふいに口に手を当てて堪え切れない笑みを見せた。
笑みで二人の視線を集めたエミリアは、小さく首を横に振ると、
「ううん、ごめんなさい。なんだか今の二人のやり取りが、すごーく仲良しの言い合いに見えて……それこそ、兄弟みたいじゃない?」
「僕の兄と弟は、もっと僕を大切に扱ってくれてたと思うんですけどね……」
「そんなこと言うなよ、お兄ちゃん。気付いてなかっただけで、実家でも兄貴の扱いはこんなもんだったぜ。現実を見ろよ、兄者」
「うるせえ!」
もはや言葉を尽くして言い返す気力もないオットー。スバルはそんな彼の態度に唇を尖らせながら「お兄様、兄くん、あにぃ、兄や、兄チャマ、兄君様」などと繰り返し続ける。それを見ていたエミリアが、ふと手を打った。
「あ。それなら、二人はいつもどうやって仲直りしてるの?オットーくんがいつも譲ってるんだと思うんだけど、それがわかれば少しは答えに近付くんじゃない?」
「すげぇナチュラルにオットーがいつも譲ってることになってる」
「じゃあ、スバルの方が先に譲ってあげるの?」
「俺は……たとえ、この世の他の誰に屈することがあっても……オットーに、オットーにだけは屈するわけには……!」
「うるせえ!」
猿芝居を短い怒声で吹き飛ばし、オットーはこめかみを指で掻きながら考える。どうやら真剣に、エミリアの言葉を吟味して答えを出そうとしている様子だ。
「ええっと、僕がナツキさんと言い合いになったとき、どうしてるか……」
「まぁ、大体泣き寝入りだな!」
「考えるまでもない答えが出て自分でもどうしようってなりましたよ!」
机の上で頭を抱えるオットーを、立ち上がったエミリアが慰めるように撫でる。そのエミリアの優しさにスバルが嫉妬しつつも、どうやらこの場で得られるものもなさそうだと膝を払って席を立った。
「ま、参考にはなったよ。とりあえずフレデリカに当たってみて、その当たり方の結果次第でエミリアたんの案を実行する方向にしよう」
「ただのお節介焼きって、そんな風な骨折り損の結果に終わるかもしれませんよ?」
「実際に骨が折れるよりよっぽどマシだと俺は思うけどね。お前は違うか?」
「――はあ」
スバルの答えを聞いて、オットーが諦めたようにため息をついた。
そのオットーの口元が緩んでいたのが、問いかけへの答えのようなものだ。
エミリアもオットーの表情に、スバルと同じものを感じ取ったのだろう。彼女は軽くその場で伸びをして、オットーに微笑みかける。
「それじゃ、私とスバルは失礼するわね。オットーくんも忙しいのに、お仕事の邪魔してごめんなさい」
「いえいえ、誘ったのは僕の方ですから。それに、息が詰まるような書類仕事の山に囲まれてるんです。たまの息抜きで少しは楽に……」
エミリアの気遣いにそう応じて、オットーが表情をハッと変える。
「いや、そもそもなぜどうして僕がこんな苦労してメイザース辺境伯の領地の書類仕事を懸命に……?いつの間にかわけのわからない内政の手伝いと、領地経営の記録資料の閲覧許可まで出て……僕はただ、油の買い取りの計算の見積もりを提出しようとしていただけだったはずなのに……」
「おっと、エミリアたん。これ以上はオットーの仕事に差し障りそうだ。俺たちは仲良く手を繋いで退室することにしようぜ!」
「え?あ、はい、わかりました」
額に手を当て、自分の今の境遇に迷いを抱き始めたオットーを置き去りにする。どさくさ紛れにエミリアの手を取り、スバルは『オットーの執務室』の外へ。と、扉に手をかけ、退室しようとする背中にオットーが、
「あ、ナツキさん――」
「ああ?なんだよ。安心しろ。お前がそこに座ってるのは間違いでも催眠術でも高度な暗示でもなんでもない。ただ成り行きと巧みな話術で誘導されて……」
振り返ったスバルの言葉が途中で途切れる。
それは軽口を続けるには、オットーのスバルを見る視線がどこか思いつめたもののように思えたからだ。何か、重大な話をしようとしているようにも。
口をつぐむスバルと、その隣で首を傾げるエミリア。オットーはその二人を視界の中に入れながら、ほんの刹那の逡巡をたゆたう。
だが、それはエミリアが振り返る、ささやかな時間の間に霧散した。
「――いえ、なんでもありません」
「なんだよ、気になるな。言いかけたんなら言えよ」
「そうしたいと思わなくもないんですが……まあ、今のところは雲を掴むようなお話ですので。もうちょっと希望の見える形になってからお話しします。まだこれが助けになるか不安要素なのか、僕にもわからない部分が多いので」
頭を掻いて、オットーは言葉を躊躇った理由をそう結ぶ。
スバルは少しの間、無言の視線でオットーの心変わりを求めたが、彼は自分の椅子に座ると羽ペンを取り上げ、
「僕は仕事に戻りますので、ガーフィールの件はお任せしますよ。武官がうまいこと働ける状況にないと、文官は後方で安心して働けませんから」
「――わかった。でも、言えるようになったら言えよな、内政官殿」
「ええ、それはもちろん……う、文官?内政官……?」
「行こう、エミリアたん。俺たちがこれ以上いても、邪魔になるだけだ!」
再び自分の立場の認識齟齬に頭を悩ませ始めたオットーを置いて、スバルは慌ててエミリアの手を引きながら部屋を出る。
エミリアは目を白黒させたが、扉が閉まり切る直前にオットーに振り返り、
「あ、えっと、その、オットーくん、お大事に頑張ってね!」
慮っているやら尻を蹴飛ばしているやら、わからない声をかけて部屋を出た。
※※※※※※※※※※※※※
『オットーの執務室』を出て、いよいよスバルとエミリアの行動指針は固まりつつあった。というか、固まっていたところにオットーの意見という不純物が混ざりつつ、なんだかんだで固まっていたままの状態で実行に移されようとしていた。
「思えば無駄な時間を過ごしたものだ……」
「そんなこと言わないの。オットーくんの話はほら、えっと、ほら……うん、ほら、あの、ほら……参考になったじゃないの?」
「最後疑問詞で終わるあたりに、エミリアたんの隠せない素直さが出てて可愛い」
必死にフォローしようとしてし切れないエミリアを賛美しながら、スバルは先の指針に沿ってフレデリカを探そうとする。
ひとまず、あの姉弟で問題があるとすれば姉の方だ。ガーフィールの方の心はもう決まっている。あとはフレデリカの覚悟、それが決まるための切っ掛けを――。
「あら、エミリーにスバルではありませんの。何をしておりますの?」
「う」
「あ」
歩いていた背後から届いた声に、スバルは気まずげに息を詰め、エミリアは素直に驚きを面に出して振り返る。
二人の視線の先に立つのは、濃い藍色の髪を編み込んだドレスの少女だ。
年の頃は十歳以下、ペトラやベアトリスよりさらに幼い。豪奢なドレスを身にまとうのはベアトリスと同じだが、飾り立てられる要素は縦ロールの少女のものより簡素に誂えられている。その幼さに見合わない、厳しい目つきと凛々しい顔つき。
少女の名はアンネローゼ・ミロード。
スバルたちが世話になっているミロード家の嫡子であり、現在屋敷に不在の当主に代わり、スバルたちを受け入れる立場にある少女だ。
もちろん、諸々の手配などはクリンドを始めとした優秀な家中の者が執り行っているものの、それを指示するアンネローゼの振舞いは堂々たるものだった。
為政者として、人の上に立つ気構え――それが幼くして出来上がっている。
ロズワールの生家であるメイザースを本家とした、魔導の分家筋がミロード家だ。いずれそれを継ぐ者としての気概、アンネローゼにはすでにそれがある。
それが子どもらしい可愛げ、といった要素を欠け落とす理由になっているように思えて、スバルはアンネローゼがあまり得意ではない。ただ一個の人間として向かい合ったとき、十近く年下の少女が自分よりはるかに練達しているように見えるからだ。
ただその一方、スバルの隣のエミリアの反応は実にわかりやすく、
「もう、アンネったら。私はエミリーじゃなくて、エミリアだって何度も言ってるのに」
「あら、ごめんあそばせ、エミリー。でも、それを言うなら最初の自己紹介の時点で言葉を躊躇ったエミリーが悪いのですわ。それにエミリアより、エミリーの方が呼びやすいし可愛く思えましてよ」
「そう?別に私も、悪い気はしてないんだけど……仕方ないんだから」
と、そう言ってアンネローゼの呼び方を許してしまう。
見た通り、エミリアは初対面のときから妙にアンネローゼと仲がいい。理由を問い質したところ、変に馬が合うからという答えが返ってきた。
どうやらアンネローゼもエミリアに対して似たような感慨を抱いているらしく、ハーフエルフであるエミリアを前にしても負の感情を一つも窺わせない。あるいは精神的な部分で釣り合いが取れているのかもしれないが、それはそれでエミリアの年齢を考えると問題のある理由といえる。
「ところで、エミリーはスバルと何をしてましたの?逢引きですの?」
「お、そう見える?見えた?まいったなー、仲睦まじすぎてそう見えたかー。照れる照れるとき照れちゃうね、エミリアたん」
「ううん、全然そんなことと違うの。ちょっと一緒に悪巧みしてただけだから」
「俺の気持ち知ってるくせにバッサリいくんだからもう!」
耳年増なのか興味津々な顔のアンネローゼに、エミリアがあっさり首を横に振る。アンネローゼも別に期待していなかったらしく、「そうですの」とスバルの方を見下すような目で見てため息をついた。
今の目つきは完全に、スバルの意気地なしぶりを嘲笑っている。だが、スバルが悪いわけではないと思う。スバルはちゃんとアピールを続けている。ただちょっと、前にも増してエミリアの受け流し方が上達してるだけだ。
「悪巧みは後で聞かせてもらうとしますけれど……お二人は、クリンドを見かけておりませんこと?用があるのに見当たらないんですのよ」
「クリンドさんなら、さっきペトラとベアトリスの二人を見守ってたわよ?」
「……エミリーの物も言いようですわね」
それだけで事情を察したらしく、アンネローゼは苦虫を噛み潰した顔だ。
クリンドと付き合いが長いだけに、その性質は彼女も十分知るところだろう。なにせ普段なら、彼の動かし難い『ロリ魂』は、主であるアンネローゼただ一人に向けられているのだ。その強さと鋭さと救えなさは、言って聞かせるまでもない。
「おいしいお菓子を買ってきたから、二人に食べさせたいんですって。私たちの分もあるのかな。すごーくちょっと気になる」
「……あのクリンドがそんな失礼をするとも思えませんから、あると思いますわ。わたくしのところにも、先んじてお茶と一緒に差し入れて参りましたもの」
「あ、そうなんだ。わ、楽しみ」
手を合わせて喜ぶエミリアと、それを微笑ましげに見るアンネローゼ。
完全に背丈と年齢の立場が逆だ。ほのぼのしたシーンではあるが、スバルは微妙に首を傾げざるを得ない。
と、そうして首を傾けていたスバルに気付き、アンネローゼの青い瞳が細められる。
「この際、暇そうにしているエミリーとスバルの二人でも構いませんわね。ちょっとお願いしたいことがあるのですけれど、付き合っていただけますこと?」
「おいおい。俺らは暇そうに見えるけど、実はそうじゃないんだぜ。暇そうに見えてその実、この空き時間を利用して後顧の憂いを断っておこうという実に行動的な方針を固めているところであって……」
「お願いしたいことってどんなこと?手伝えることならいいけど……」
冗長な言い訳を紡いでいたスバルに代わり、エミリアが軽はずみに受ける姿勢を見せてしまう。そんなエミリアに笑いかけ、アンネローゼは九つとは思えないほど大人びた目を二人に向けて、
「小父様を驚かせたいのと、わたくしから長年の付き合いのあるメイドへのちょっとした気遣いってところですわね」